あかやあかしやあやかしの

  • 2013.01.14 Monday
  • 00:12
あかやあかしやあやかしの


「花帰葬」で一躍有名になったHaccaWorksさんの二作目。
相変わらずハッカさんは世界観を表現する雰囲気作りが抜群にうまいです。
今作では夕闇に染まる黄昏の街で、あやかしと人間が描かれます。
「逢魔が時」という言葉が相応しい、どこか妖しさと禍々しさのある作品です。
ユーザーインターフェイス、そしてグラフィックが細部までこだわり抜かれていて、
特に背景とマップは細かいところまで描き込まれていて、世界観が徹底されていました。
スチルも綺麗で圧巻です。キャラの塗りも美しい。手足が多少長いのはご愛嬌。

シナリオは会話劇が中心に進み、地の文はほとんどありません。
ある意味分かりやすさがあった「花帰葬」に比べて、とても難解になっています。
その難解さの理由が、「人の理論」「あやかしの理論」の混在にあります。
キャラごとにそれぞれ持ち出す理論が「人」と「あやかし」で前提が明確に違っている上に、
キャラクターもあまり饒舌なほうではなく、一言二言で説明しようとします。
にも関わらず次から次へと新たに持ち出される設定のオンパレード。
そのため、非常に混乱しやすいです。

また、前作を上回るバッドエンドに次ぐバッドエンドですので
ハッピーエンドが好きな方は避けたほうがいいです。
努力や想いが報われにくく、主人公の由の境遇があまりにも悲惨です。

前作は花白が何があっても徹底して玄冬だけを想い、
プレイヤーのやるせなさを代弁してくれるという心情的な救いがありましたが、
本作ではそれもなくなっているので、とても後味が悪いです。
悲惨な設定と展開が多いので、鬱ゲーともいえますが
徹底した雰囲気の美しさと儚さ、そしてどこか惹かれずにはいられない切なさがあります。
ただ、本作では「持ち上げて落とす」のではなく「ひたすら落とす」という感じです。
抑揚がなく盛り上がりに欠け、とにかく陰鬱な展開に続きます。
バッドエンドならせめてその前に持ちあげてくれるようなイベントがあればと思いました。

音楽も非常に素晴らしく、主題歌の志方あきこさんの「朱隠し」も素敵ですが
挿入歌であり、本作の鍵となる童歌「あかやあかしやあやかしの」も素晴らしかった。
夕闇に沈む影の街を演出する音楽は総じて質が良かったです。

以下ネタバレ感想。
遅効性の毒のような作品でした。じわじわ萌えが来るという意味ではなく、
奴らじわじわ息の根を止めにかかってんな、という意味です。
なのに何故か惹かれて止まず、辛いのにこの作品を考えずにはいられなくて
でも考えると鬱になる無限ループ。そういう意味で人にはおすすめしづらいものの、
好きな人はとても好きな作品だと思います。
ハッカさんの可哀想萌えへの執念をちょっと舐めてた。

「花帰葬」の玄冬も過酷な運命を背負っていた大変な人でしたが、
そんな「花帰葬」は可哀想萌えの第一人者、ハッカさんにはまだまだヌルかった。
何故なら、「もうやめたげてよぉ!><」というユーザーの代弁者として
「花帰葬」は花白と黒鷹が玄冬の味方となり、玄冬の幸福を願ってくれるので
例え哀しい結末になっても心情的には救われる。
ですが、「あかやあかしやあやかしの」だと、由の味方は黒狐だけで、
そしてそんな黒狐は立場が圧倒的に弱いので由を救う力まではない。
結果、プレイヤーは高確率で死んだ魚の目になります。


本作の主人公、由の可哀想振りは突き抜けていました。
プレイしているこちらが不安になるほど、恐ろしいまでの儚さがある由。
で、それは何故かというと、由は「自分」を諦めているから。
そして、常に死を覚悟している。
半端な状態からシンの依り代になったから食事をしないと長くは保たず、
そのどうしようもない諦観が由の儚さに繋がっています。

「俺自身の気持ちかァ。
 ……元々、そんなこと考えたことなかったけど」


これです。考えて!!考えてよ!!!。゚(゚´Д`゚)゚。
しかも、由も自分の不遇を訴えるわけでもなく、
由に寄り添って代わりに怒ってくれるのが黒狐しかいないって……
なんなんだよ……物分かり良すぎだろ……
そもそも反抗するほど精神が育ってもいない……(´;ω;`)ウッ…

生まれた時から悲惨な境遇で、シンという魂を抱え、数多の人の記憶を抱え、
純粋無垢な魂が狂わず、それでも自我を保っていられるのは
シンと会話をしていたからですよね。
シンはどうやら、普段はユルくて陽気なお兄さんだったよう。
寝る間も惜しんで会話を楽しむくらいだから、
由にとってシンは間違いなく救いとなっていたはず。
でも、あやかしの皆は由を通してシンを見てもいるわけで、
由の内心は複雑だったのかもしれないとも思います。
そして、そんな複雑な気持ちもシンとの会話を通じて「じゃあ仕方ないか」と
「自分が誰かの代わりである」ことを受け入れる諦めに取って代わられてしまうのが……
由は誰かを憎んで自分を正当化することも許されない(´;ω;`)ウッ…

何が一番酷いって、由自身が自分を哀れんだり葛藤することがまったくないのです。
ではどうするのかというと、由はもう諦めてるんですね。
自分のそんな過酷で悲惨な運命を諦めと共に受け入れており、
それが酷い運命なのだということも実感できない。
何故なら彼の僅か七年弱の生涯のうちで、今より幸福な状況を見たことがないから。
主人公に感情移入する人は本当にしんどいことになると思います。

本作は昼と夜との間にある夕方で、光を取り戻すか影に沈むかの境目にある街での出来事。
その中で由も人として生きるか、あやかしとして生きるかを選択することになります。

そういった意味で、作品ベストエンドが嵯峨野ルート
「はるの、あしおと、やわらかに」なのも、
由があらゆる意味でしがらみから解き放たれ、
自分の人生を取り戻せるからでした。
何故椿でも秋良でもなく、相手が嵯峨野でなければならなかったのかは後述します。

椿
枯れた性格、というよりも色々あってちょっと斜に構えてるだけのように見えましたが
なかなかしっかり者のお兄ちゃんで、面倒見が良くてお人好しで、良い奴です。
母と由季の裏切りを受け入れられるほどではなく、
でも二人を信じたい気持ちもどこかにあり、と
大人と子供が交じり合った自己矛盾を抱えてるのが
あの年代特有の感じがして共感できた。

一番最初に椿エンド「砂を噛むよに祈ること」を見てしまったので
ピンと来なかったのですが、他キャラを攻略してからもう一度このルートやると
最初は由を通じて明確に由季を見ていた椿が、少しずつ変化して
最後には由自身を見ているのが分かってちょっと嬉しかった。
特に由に庇われた時の反応が秋良とはっきり差があって、
椿は人として大事なところを分かってる奴だなあと思いました。

椿はあまり由への友情を前面に出さず、しかも途中まで由季を想ってるので
すごく分かりにくいのですが、最後の最後に思い出したのが由の寂しげな笑顔。
ハッカさんは演出でキャラの心情を表現するので、あの回想での由が
椿にとって由への想いの深さを示しています。
「椿を救いたい」で椿の記憶を取り込んだ由が、
「椿、ちゃんと俺達のこと想ってくれてたんだ。こんな、まるで友達みたいに」
言うことから、椿の中には由季の代わりではなく
由に対する明確な友情が芽生えたと見ていいのが、唯一の救い。

椿ルートは椿の魂の救済を取るのか、肉体的な救いを取るのか、というのが
「あやかし」か「人間」かどちらの生き方を選ぶか明確になっていて良かったです。

秋良
視野が狭く、頑迷で他人の意見に耳を傾けず、浅はかで、おまけにコミュ障で
無神経、更に実力不足な割には思春期特有の根拠のない万能感に支配されている。
彼は非常に自分勝手で見ていて痛々しく、場当たり的で、正直言って、
あまり好きになれないキャラクターだった。
ただこれは好みの問題で、こういう人間って実際にいるので
キャラクターとしてはまったくブレてなくていいと思います。

真っ直ぐで、かつて喪った親友への哀しみと怒りに突き動かされてるために
あやかしを憎んでて、そのために由を信頼できないのですが
「あやかしはすべて悪」というその頑迷さが、
「人間はすべて餌」と影の街にこだわるあやかしと同じであまり笑えなかった。

というか、本作は捕食者と被捕食者の物語でもあるんだから
「世は弱肉強食、人間は動物や植物を殺して糧としている、
 だから人間よりも強いあやかしが人間を捕食して何が悪い」

誰か一人ぐらいこういう主張して秋良をやり込めてほしかった。

そこから秋良が落ち込むなり悩むなりして、でも自分なりの解答を見つけ、
秋良がその矛盾点を突いてあやかしと対峙し、それでも信念を貫いてくれれば
彼を見る目は随分と違っていただろうし、見せ場にもなっただろうから残念です。

彼の空回りと由と椿のやり取りはコミカルではあるが、話が進むと彼の性格の
悪い部分ばかりが目について、人間の感情が理解できない辺りが非常に苛々した。
しかも長所らしき部分が見えないのが更に……。
何か共感できる点があればまだ分かるけど……。

それの顕著たる例が椿ルートの「砂を噛むよに祈ること」での「おかえり」だと思う。
もっと秋良が椿の心情を汲んでいれば、この一言は活きた。
椿もあやかし側に行くのを思い留まったかもしれない。
椿は非常に不安定な状態だったからです。
でも唯一残された人間側で由を知る人物が、由と妹の喪失を肯定する。
しかも、「これで良かったとしか思えないし、思いたくない」って……
本人は気付いていないようですが、それはかつて秋良が親友を食べた時に
あやかしが秋良の親友を存在ごと消したのと理由は同じなんですよね……。
どちらも「生きるためには仕方がない」という理由ですよね?

しかも彼らは強制的に記憶を抹消されているが、
秋良は自覚的にやっているから更に質が悪い。
自分だってそれで傷ついて、あやかしへの復讐に燃えるようになったはずなのに
同じ事を椿にしてしまう無神経さがとても受け入れられなかった。

これでは椿があやかし側に行って当然だと思うし、
明らかに傷ついている現時点の椿に告げるにはあまりに酷な発言だと思います。
「何人もの人間が自分の代わりに死んで、
 そこまでして生かされる価値が自分にあるのか」

椿は明確に人としての自分に疑念を抱いてしまっているわけですよね。
それが分からず、守れたから満足とするのは独りよがりだと思う。
まあ、秋良はいつもそうなんですが。だから椿に振られてしまうんですが……。
それが残酷な言葉だと分からない辺りも更に痛い。
しかも彼は、最後まで成長することもなくそのまま終わる。

由への友情と復讐の間に迷い、葛藤するような描写があればもっと深みが出たと思います。
先入観に囚われて、恩を受けたことすら無下にする辺りも、ちょっと人間性を疑う。
あと彼の「街からあやかしを解き放ちたい」の空々しさがちょっと気に障りました。
残酷な形で唯一の親友を喪い、あやかしへの復讐を決意した心情は分かる。
徹頭徹尾、私怨に走るのもいい。でもそれを、何か信念ぽくするので痛々しい。
結局は嵯峨野に言われた通りにしか動けないにも関わらず。
実際の彼の信念の薄っぺらさ、何事も場当たり的にしか行動できない浅慮、
正直言ってどこを好きになればいいのかも分かりませんでした。

「覚悟がないのに流される」「俺達は同じだね」
由に苦笑されてたけど、自由度の違いは由と比べ物にならんで……
だって由は、母の朱音に灯吾と天秤にかけられて、
由を犠牲にすることを母が選んだ記憶がまるごと残ってるんですよ……
「お母さんは止むに止まれぬ事情でオレを捨てたのかも」という夢も見れないのに……
この状態で主体性を持って生きろっていうほうが無理ゲーだろ……
そりゃ秋良には一切関係ないですけど……
お前はもっと、それこそ椿より環境恵まれてるだろ、と思ってしまう……


嵯峨野
こいつ素直じゃないんですよね。
なに考えてんだか分かりにくいんだよ馬鹿(゚Д゚)
彼もまた可哀想にも程がある人。

何故作品ベストが嵯峨野エンドなのかというと、
由が割とはっきり嵯峨野に興味を持った上で、
「俺はシンじゃない」「これはオレの身体だから」
自我を主張するんです。様々なしがらみによって
他のルートでは曖昧に微笑んでるだけだったのに、
嵯峨野とは由としてコミュニケーションを取るんですよ。

で、嵯峨野も由を哀れんでるだけでなく罪悪感を持ってるんですよね。
そして由個人に関する感想がほぼ無に近い状態から、
「オレは、シンじゃないよ」と言われて少しずつ由の人柄に触れていく。

でも、嵯峨野は「願えるならば、ひとつだけ」でもあるように
由を殺してまで生き残りたいとは思っていないんですよね。
むしろ軽口を真に受けた由を死なせてしまった苦い後悔と、
戻ってきて欲しいという気持ちで黒狐と通じあって
歌を歌って呼び戻そうとするんですよ……
「願えるならば、ひとつだけ」は鬼畜エンドですけど
個人的には朱史の由への想いが見えて好きなエンディングです。

黒狐
本作の癒し。
感情表現が豊かですごくはっきりと自己主張する数少ないキャラで
見ていて和みました。
黒狐がベストエンドにならないのはプレイすれば分かる通りです。
利害関係があるからで、しかも未来がない……(´;ω;`)ウッ…

「選ぶ未来は愛おしく」で黒狐×由に萌え転がったのは良い思い出。
あのどうしようもない感溢れる逃避行が好きです。
理性と本能の狭間で悶え苦しむ黒狐が思わず由を押し倒してしまう展開早く!

狭塔さん
ちまたでは悲惨なエンディングとされているのですが、
狭塔さんがそんなに酷いとは思いませんでした。
この人に比べたら足部さん達とか金魚とかミコ様のほうがよっぽどひどいと思うのですが。
狭塔さんは影の街に反対なんですよね。立場上するべきことをしてるだけで、
「あかい、あのはな、今日も咲く」でも、
あれは強制されたというよりは由の意志ですよね。
人としての自分を選択した由は、「秋良を守るために部屋から出ない」
それまで自分の意志で何かを望むことがほぼなかった由が、
明確に意思表示したエンディング。
哀しい結末だけどこれはこれでありだと感じました。

由は人間側に留まるとなると過酷な道を行き、一気に儚くなるけど
あやかし側になるこをを覚悟すると割としっかりする印象があります。



そもそもあやかしにとって「食事」とは何なのか?

あやかしは食事の餌となるヒトとそれ以外のヒトの判別がつきません。
シンの魂を抱える由もそれはまた同じ。
だから食事の餌となるヒトだけは違って見える。
ただの餌ではなく、「食事」はあやかしにとって特別な意味を持っています。
自分にとって特別な存在を糧とすることであやかしは力を得る。
しかも食事の相手は、ミコ様やもみじ、もみじの相方の包帯ぐるぐる巻き野郎を見る限り
どうやら「特別好きな人、気になる人」であるようです。
椿があやかしみんなにとって特別な三ツ星なのは、
朱史の身体に入ったシンの子孫だから。
椿があやかしを見るのもそれが理由です。

包帯野郎が「シン」の外見をしている朱史を選んだことから、
「必ずしも人間である必要はない」ようにも思われます。
魂がシンだったら太刀打ちできないのでとても食事の相手には出来ませんが
中身が朱史だったからこそ、いけるかもしれないと彼は思うのですね。
「食べたいヒトがいない」と言っていた包帯さんが、シンの身体を使う嵯峨野を見て
「俺、シン様好きだから〜、シン様にする」という言葉が全てを物語っている。

その上で、あやかしにとって食事とは何なのか、という
象徴的なエンディングが椿ルートになります。

主人公の由はあやかしでもなく、純粋な人間でもなく、
いわば中間にあってどちらでもない存在。
つまり食事によって由は「人として生きるか」「あやかしとして生きるか」を
明確に選択する必要があった。

食事の相手が椿だったのは、ある意味必然で、由個人の意志ではないですよね。
由の中にいる由季と朱音の記憶、生まれ、そしてシンの魂によって導かれた。
で、もう一つの秋良は地主の息子だから、
これもまた由個人の好き嫌いとは関係ないように思える。

「椿を守りたい」=人としての論理を選んだ由。
そのため食事を拒否して消えてしまいます。
常に誰かの代わりであることを諦めと共に受け入れていた由の
最後の望みが「俺の代わりはいらない」と言うのが切なくて胸が痛みました。

「椿を救いたい」=あやかしとしての論理を選んだ由。
由の中で大好きだった由季と朱音の記憶と混じって灯吾が混じって融け合い、
ひとつになるエンディング。
結果的に灯吾は死んでしまいますが、それが自分の存在に疑念を抱いてしまった
椿の魂の救済になるとされているんですね。

椿ルートは由が明確にどちらの生き方をするのかを決めるラストでしたが、
あやかしにとって食事とは相手を糧とし、自分の一部とすることで
相手の身も心も吸収する
ということになります。
そして、それが「ずっと一緒にいられる」と肯定されてもいる。
その相手は自分が心動かされる存在でなければならないのが、
「大好きだから、喰らって自分の一部としたい」ということで、
それがあやかしとして最大限の思慕の表れだということでいいんでしょうか。
それとも食事の餌だから相手に執着するようになるんでしょうか。
でも、シンは朱史のことを「大事な人の大事な人で、最初から気に入っていた」
由に対して朱史についてのろけたりもする。
ここら辺は解釈の違いだと思いますが、
包帯の人のシン大好き=シンの身体だから食べちゃおう
シンとミコ様の朱史大好き振り、ミコ様が椿の花(=ミコ様の力?)を朱史に
分け与えていたことを見る限り、前者だと見ていいかなと思いました。



本作における主人公、由の救済について

で、本作で嵯峨野(朱史)が「ベストエンド」とされているのは、
朱史と由の間に利害関係がなく、似た者同士だからだといえます。
どちらも人間だったのに、強制的に人生を狂わされた悲運を背負った者です。

更に朱史の外見を持つ由と、シンの外見を持つ朱史と、明確に対となっています。
その二人があやかしの呪縛から逃れて人としての生き方を共に模索するエンディングは
爽やかで温かい気持ちになるものでした。
で、ここであやかしの皆さんが由を置いて行ってしまうんですけど、
親心だなあと感じました。
人間としての生活に必要な物を狭塔さんは残していってくれるから、
決して見捨てられたわけではなく、
人としての生を返してくれたと見るべきでは。

だってわざわざシンが影の街を作ったぐらいだから、それまでのあやかしは
狭い場所に汲々として肩を寄せあって暮らし、生活は厳しいものだったはず。
ミコ様とシンがいなくなって、あやかし達が更に過酷な生活を送ることになるのは
容易に想像がつきます。
そこにあやかしではない人間の由を連れて行っても、
単純に養えないという問題もあるだろうし、
あやかしとして生きる意味が由にはもうない。
捕食することだって出来たはずですよね。
でもそれはせずただ解放したのは、最大限の親心だなあと感じました。
あと、狭塔さんは元々影の街を作ることを快く思っていなかった。
ここが重要な点だと思います。

嵯峨野でなければならなかったのは、由と利害関係になく、
由自身が誰に強制されたわけでもなく「気になる」相手で
嵯峨野とのやり取りを通して自分は自分と主張するからだと思います。
そりゃあんな登場されたら普通気になるわな。

あと、最初から朱史は由を由個人として認識していました。
人に害成すあやかしだと決めてかかる秋良と、由を通して由季を見ている椿。
どちらも由個人を見ているとは言い難い。

一方朱史は、時々忘れて由に八つ当たりしてるけど、
由の中にシンがいることを認識している。
だから何度も「代われ」「お前に興味はない」と言い、
終いには「カワイソウだよな」と同情するような言葉まで言う。
可哀想という言葉に孕む同情と庇護欲、そしてどこか目下の者に向けるようなニュアンスと、
でも誰がどう見ても「可哀想」以外に表現しようのない悲惨な由の生まれと半生。
しかも由がどれだけ哀れな境遇にいるのかを、本人は自覚してすらいない。
由は外見すら自分のものではなくシンによって朱史を模したものとされ、
生まれた時から依り代として生まれて親の愛も人としてのあらゆる幸福や生も得られず、
魂は元凶であるシンに侵食され、無垢な幼子が
ただただあやかしに食い物にされているように朱史には見えたはず。
これ以上「可哀想」な状況があるのかといった中で、由は諦めと共に生きている。
それが結果として、朱史の皮肉っぽい「カワイソウ」となるわけですが、
朱史が由に罪悪感を持っているのは由自身に指摘されています。
「自分のせいで由は“カワイソウ”な目に遭っている」と感じている。
哀れみは由に、では皮肉は誰に対するものかというと、
朱史の皮肉は実は自分と、由の中にいるシンに対するものなのです。

けれどあやかしがいなくなったことで互いの置かれてる状況の理解者として
由と二人で、取り戻した人としての生をやり直すって
すごく二人にとって人間としての救いとなるエンディングだったと思います。



以後、印象に残ったエンディング感想。

椿ベストエンド「砂を噛むよに祈ること」

「連れていけよ。今度は、俺の番だから」が哀しい。
椿は自分のせいで多くの人が命を落として人生を狂わせた責任を感じているんですよね。
「自分の代わりはいらない、って最後に言ってたな」って、
由の望みではないと分かっているのにそれでも「今度は、俺の番だから」……
皮肉にも、人としての自分を選んだ由の答えこそが
椿をあやかしの道に引きずり込んでしまうのが、
椿の由や由季への思慕の強さの証明でもあって切なかったです。
今度は守られる側だけじゃなく、かつての由季と由と同じ立場になりたいと願うのが
すごく自然な感情で、でもそれは人としての生を捨てることで鬱でした。
でもあやかしになれば灯奈ちゃんには逢えるんだろうか……
物語として灯奈への想いを椿が口にしてなかったので、
椿は由を最後、自分を食べる選択を拒否した由を想っていた、と
受け取っていいんですよね? いいんですよね?(涙目)
だからこそのベストエンドなんだろうけど、そりゃないぜセニョール……


「おやすみしずかにいまだけは」

こんな形でしか椿に安息は訪れないのかよ……と思うとへこみます。
でもそれは人としての論理で、あやかしとしての論理では
魂が救済され、大好きな人と永遠に一緒で良かったね、ということなんですよね。


「治らぬ傷は夢に似て」

シンが楔となったことで依り代ではなく普通の人としての生を取り戻した由。
一方嵯峨野はミコ様の尻尾の化身に魂を宿す。
いつかミコ様やシンを倒してもいいから
嵯峨野の傍にいたい
、と由が言うことから
由の嵯峨野への想いの強さが見て取れるエンディングでした。
これは何かを望むことをしてこなかった由にとって革命的ともいえる決断で
それだけ由は自分を誰かの代わりでなく、誰にも強制されずに
認識してくれた嵯峨野を特別だと思ってるんだなあと感慨深かったです。
由にとっては黒狐もきっかけはシンの依り代だから仲良くした、と
思ってたんだろうからこれはすごく特別なことだったと分かります。

「記憶の果実が熟れるよう」

ミコ様に嵯峨野さんが食べられる。
シンとミコは元々一心同体であり、
その容れ物である由の糧にもなります。
由の中には今までの依代になった人たちの記憶、
シンの記憶、糧になった人たちの記憶がある。

「毎日あなたを夢で見てる。
 でも、こんな風にあなたを知りたくなかった」
という
由のモノローグがまた切なかったです。


「どうぞあなたはやすらかに」

由が身体を譲り渡して消えた後、朱史は一瞬悲しそうな顔をするんですよね。
でも「同情のつもりか? これで俺がお前らを許すと思ったら大間違いだぜ」なんですが
朱史の中で由がまだ意識されてないからこの扱い……
でも朱史は素直じゃないから、内心では由への罪悪感にまみれてるんだろうか。


作品ベストエンド「はるの、あしおと、やわらかに」

由はシンの依り代でなくなり、人間になったためあやかしに置いて行かれます。

「俺のしたことは、みんなにとって裏切りだから」
って言うと朱史の顔が歪む。シンのことも複雑だけど、
あやかしに人生を踏みにじられた由がまだあやかしのことを想っているのが
巻き込んだ責任を感じてる朱史にとっては居た堪れないのかもと思いました。

「由が朱史に生き写しなのは生まれた時にシンの気を刷り込まれたから」とあるので
つまり、「身体を影の封印に使って朱史の外見だったシン」の気を
刷り込まれたからってことのようです。つまりシンにとっても不可抗力だった?

こうして今まで書いていると由の朱史への片想いぶりが
際立っているので、やっぱり「はるの、あしおと、やわらかに」以外の
ベストエンドはありえないなーと思いました。
朱史は由に親近感のようなものを抱いてるので良かったです。
ここで、朱史の「お前には関係ない」が、
「お前は悪くない」という意味だということが明らかになります。
だったら!!最初から素直にそう言えや!!ヽ(`Д´)ノ

最後に朱史が「うまいもん食べたい」って言って、
「お前は?」って由に聞いてくれるのが、
何か、感動しました。すげえ、コミュニケーション取ってるよ……!
一方通行じゃないよ……!

「じゃあ食事をしよう」でエンディングなのが
これまでの「食事」ではなく、始めて人間として
「食事」を楽しめるようになるということで、
清々しいエンディングでした。

理解者として、孤独ではなく一緒に生きていける相手を得たので
両想いエンディング。
なんだかんだ朱史は世間知らずで危なっかしい由を放っておけず
面倒を見る羽目になるのが目に見えるようです。
そしてそれが朱史を孤独から救うことにもなる。

黒狐にとっては寂しい結末だけど、でも由を守りたいと
強く願っていた黒狐にとってはこれで良かったのかもしれない。


黒狐エンド「選ぶ未来は愛おしく」

切ないけど萌え転がったエンディングでした。
外に出た時から由は始末されることを覚悟していたことが語られます。

「オレ、ここに居たいと思ったこともないけど……
 居たくないとも、思ったことないから」


「あの部屋を出て、色んな事を教わったけど。
 オレに、『望む』ってことを教えてくれたのは、
 シン以外じゃ黒狐だけだよ」


由にとって黒狐とシンは数少ない家族だったと感じさせてくれて、
由には二人が心の支えになっていたんだなあと嬉しくなりました。

黒狐と由の逃避行は、影が先か追手が先か。
黒狐の覚悟が切ないエンディングでした。


秋良エンド「真昼の清しい空の下」

椿が犠牲になったものの、あやかしは街から消え、
本願を叶えた秋良。
「もう戻ってくるな」という秋良と
「またね」とあやかしとして生きることを選んだ由。
椿が可哀想すぎてあれなエンディングなんですが
椿の犠牲を全部あやかしのせいだ!ということで(実際そうなんですが)
まったく我が身の浅はかな行動の重みを省みない秋良にもやっとしました。
お前は気まずそうに沈黙する以外なんか言うことないんか。
だから黒狐に「これで満足か?」となじられるのですが……
敵同士になった二人ですが、これから会うことあるんでしょうか?
だってあやかしは今後、山奥に引っ込むのでは……。


「あかい、あのはな、今日も咲く」

狭塔→由→秋良って感じです。
由が秋良をこれだけ想ってるのに、
逆はないという片想いエンドでへこみました。


「願えるならば、ひとつだけ」

まさかの鬼畜エンド。
「どうぞあなたはやすらかに」と違って、
由一人を犠牲にしてシンも帰ってきてしまう。

恋する娘そのもので嬉しそうなミコ様に
「歌を教えて」と言われてもだんまりの朱史が、
黒狐には自主的に歌を教えてくれるのが泣けます。

切ないけど黒狐と朱史が「誰かの犠牲となるために生まれてきた存在」である由を
想っているのがよく伝わってきて好きなエンディングです。


「今では夢から醒めたよう」

良い味を出してたイゴイゴさんエンド。
影が街から消えてエンディング、
由がいるけどあやかしがどうなったかは不明。

「破壊の先に創造があるからだよ
 さあ、ソウゾウを始めよう」


あやかしによって新たな影の街が創造されている、と解釈しました。


秋良エンド「平穏と朝焼け色にひずむ街」

誰も犠牲にならず、束の間の平穏を取り戻す。
いつか街を取り返すために修行し強くなることを誓う秋良。
その時に朱史を呼び起こすと約束しますが、
これ、無理じゃね?と思いました。

秋良にマジで人としての情がなく、
由を畜生としか思ってないなら可能かもしれませんが……。
長引けば長引くほど由と椿との友情が深まっていくのに、そんな状態で
メンタル弱い秋良が友情を壊してまで街を救う覚悟を決められるのか、
ちょっと疑問です。

あと実際にそうした場合、彼にとって友情って何なんだろうと
思ってしまう。

何で人間である俺達があやかしなんかに餌にされなきゃならないんだ!ヽ(`Д´)ノプンプン
という気持ちはよく分かるのですが、朱史との発言の重みの違いは何なのか。
何か、秋良の言葉って軽く聞こえてしまうんですよね……。
それが多分、彼が後先考えずに行動し、
覚悟もないのに相手を闇雲に責め立てるからだと思います。

大事なことなのでもうちょっと秋良自身が
人間として成長してくれないと子供の駄々に見えてしまって
説得力を感じられない、そんな今日この頃。
でもキャラクターとしては終始一貫しているので、
純粋に好みの問題だと思います。

ここまで色々書きましたが、すごく世界観に浸れたゲームでした。
いつまでも気になって仕方ない作品だと思います。
黒狐と由の今後に幸あれ……!つД`)・゚・。・゚゚・*:.。..。.:*・゚
コメント
プレイしようか悩み、ネットで感想を読みあさっていたのですが、この記事を読んでやるべきと思えました。
ありがとうございました!
  • しきの
  • 2014/02/28 12:08 PM
しきの様、こんばんは!かなり人を選ぶ作品ですが、楽しめることを祈っております!コメントありがとうございました〜!
  • 大樹@管理人
  • 2014/02/28 9:37 PM
コメントする








    

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