死神と少女 遠野十夜ルート感想

  • 2014.05.12 Monday
  • 00:22
死神と少女


遠野十夜ルート感想です。

以下ネタバレ感想。
これは紗夜ちゃんの成長譚なのかなと思ったのですが、黒の章を見て、
考えていたような展開にならなくて驚きました。
というのも、恋を知ったのなら、次は「保護者からの自立」かと思ったので……。
でも、これで良いのかもしれない。「美しい幻想物語」の名に相応しい。

黒の章の序盤で、紗夜ちゃんの世界はいよいよ実在と幻想が入り混じり、
非常に危ういものになっていく。
この描写が、紗夜ちゃんの心が幻想に侵食されているのだと感じられて、
金魚の演出もとても良かったです。同時に、桐島先輩は生まれてからずっと
この世界に生きていて、しかも誰にも理解されなかったのかよと思うと
泣きそうになりました。桐島先輩………(;´Д`)ウウッ…

遠野 十夜
死神と少女 応援中!

一番最初に兄さんに強い違和感を覚えたのは、臥待堂で
「お兄さんの新刊が出たんだよ」と言われて紗夜が喜ぶシーン。
作家なら本が送られてくるはずですよね?
わざわざそれを臥待さんが渡していて、紗夜ちゃんが大喜びしているのは奇妙です。
買う必要なんてないはずなんだから。
しかも臥待堂って、古書店なのに新刊扱ってるのはどう考えてもおかしい。

次に日生先輩ルートで、十夜の存在が消えたとき。
これだけなら、物語上の演出とも取れましたが……

決定的だったのは、千代と会ったとき。
「千代」って、女性名です。
なのに見えない振りをしていた兄さんはごく普通に「彼」と言いました。
見えてないはずなのに。その違和感には、蒼と桐島先輩もすぐに気づいています。
こういう細やかな伏線のおかげで、兄さんの正体はタルパではないかと思っていました。

リンク>>タルパとは
簡単に言うと、人間が「無」から作り上げた霊体のことです。

でも、兄さんが何なのかは、実際はどうでもいいことなのですよね。
問題となるのは十夜が幻想であること。「死神」であることです。
紗夜ちゃんの過去は予想を超える凄惨さで、彼女が追い詰められて
現れた十夜に救いを求めてしまったのはとてもよく理解できました。

紗夜を肯定し、名前を呼んでくれたのは十夜だけだった。
幼い紗夜の孤独感と絶望を理解し、守ってくれたのは十夜以外の誰もいなかった。
幻想だけが、紗夜の心の拠り所だった。
そう思うと、紗夜を責めるのは酷な気がします。

いくら父親が心の底で紗夜を愛してたとしても、実際に紗夜の気持ちを
現在進行形で踏みにじっていることに変わりはない。免罪符にはならない。
実の母が紗夜を虐待してたことに気づかず、守らず、保護者の役割を
果たしていなかったことに変わりはないし、立派な虐待にあたります。
まあ、家にお金を入れてれば男親として必要充分、
「誰のおかげでメシが食えるんだ」とか考える男性って別に珍しくはないのですが。
あと不倫相手の子をかわいがって(!!!)育てた継母にろくに感謝もせず
最終的に自殺に追い込んだことを考えると……、
正直、欠片も同情する気になれなくて紗夜の怒りや絶望は致し方ないと思います。
愛され、許された記憶がないのに他人や自分を上手に愛したり許したりできるはずがない。
序盤のともゑさんの不倫愛への過剰な反応は、思春期のお嬢様らしい潔癖性から
来ているのかなと思いましたが、愛を裏切られたことがある人の反応として
秀逸だと感じます。

兄さん、兄さん、兄さん、兄さん。

紗夜が十夜を求める声は、まるで悲鳴のようです。

兄さん、私を見て。
兄さん、私の声を聞いて。
兄さん、私を愛して。
兄さん、私を助けて。


十夜はそれが分かっているから、望むままに甘やかす。
紗夜が壊れてしまわないように、傷を癒すように。
友のように、兄のように、恋人のように、親のように。
紗夜が求めて止まない存在すべての代替品。それが十夜。
十夜が紗夜を呼ぶたび、砂糖菓子のように甘やかす様を見るたびに、
紗夜の孤独と愛に飢えた気持ちがよく分かって、胸が苦しくなりました。

共通ルートの夏目くんの事件で、衝突してから
なんとなく一緒にいるようになったのは、プレイヤーに
紗夜を理解してもらう意味もよく果たしていました。
お互いにそのことには触れないで、「もういいか」という状態にまで
持っていけただけでも良かったなあと思います。

紗夜が十夜に話しかけて、甘えて頼るたびに、十夜は紗夜の望む形になっていく。
「時を巻き戻したい」と願う十夜の深い愛にはぐっと来ました。
初期の明確な自我を持たなかった十夜は、
幼い紗夜に充分な優しい言葉をかけてやれなかった。
だからこそ、あの時の紗夜をこそいとおしみたいという、
見返りを求めない深い愛情がすごくよく伝わってきました。

あと、この章では日生先輩(偽)が輝きますね。
日生先輩は嘘を肯定してくれる人です。
正直、彼のルートでの睦言よりも共通ルートの別れの言葉、
そして残された本と、時計塔の荷物のほうがより深く
日生先輩の紗夜への愛が感じられました。
日生先輩は本当に、心から紗夜を想っていたんだなあ……。

ここからちょっと日生先輩の話をします。

改めて、すべてを承知の上で敢えて「王子様」を引き受けて、
紗夜ちゃんの理想を体現しようとしてくれたところがぐっと来ます。
普通の人なら「自分」があるから王子様を続けるなんて息苦しくなりそうなものを
日生先輩は嘘を吐くことで逆に安定する、というのが印象深いです。
「王子様(幻想)」という嘘を必要としている紗夜に嘘吐きな日生先輩が恋をするのが
自分の中ですごくしっくり来て、日生先輩、好きだなあと思いました。
日生先輩は自分を偽ることで生きてきて、それ以外の生き方を知らなくて、
だけど嘘を暴かれたら消えなければならないから誰とも深いつながりを持てない
ものすごく孤独な人でもあり……
そんな日生先輩の人を偽る生き方を、嘘を必要とする紗夜だけは肯定し、
日生先輩も嘘の中で生きたがる紗夜ちゃんを肯定して望まれるまま嘘を差し出し、
お互いが「嘘を吐いたまま嘘の中で」幸福になるエンディングは衝撃的でした。
それが女の子の「理想」である「王子様」を演じるというからくりがまた皮肉で良いですね。

黒の章で日生先輩は紗夜に「どう終わりたいか」を選ばせてくれます。
それはつまり、「どう生きるか」を選ぶことと同義です。
しかも恐らく、なにを選ぶかまで見越して準備をしてくれた。

話を戻します。

十夜は幻想であるがゆえに、紗夜を物理的には守れなかったかもしれない。
けれど十夜はずっと紗夜の心を守っていた。
あの異常とも思える依存や甘い言葉は、紗夜が生きるために必要なことだった。
幻想だからこそなにもできないと苦悩する十夜が好きです。
十夜は紗夜の心を映しているから、紗夜だけを見つめ、紗夜の幸福を願うのです。
であれば、十夜は誰よりも紗夜の痛みを感じ取れるはず。
なのに、自分は幻想だから紗夜を物理的に守ることはできない。どうあっても守られるだけ。
十夜兄さんのやさしい声や、とろけるような甘い言葉、ロマンティックなスキンシップ、
それらはすべて紗夜が望むままに振る舞い、「捧げてあげていた」のですよね。
だって、紗夜には誰もいないから。そのために死神という本来の役割を離れて、
ずっと二人で旅をしてきた。十夜兄さんの真摯でひたむきな愛情はとても良かったです。
保護者が与えるべきだった無償の愛を、十夜兄さんが代わりに
紗夜に捧げていたのだと思うとそれまでのベタ甘なやり取りもどこか切ない。
日生先輩とはまた違うやり方で十夜は紗夜の理想を引き受けていた。
紗夜を終わらせたくない、ただその一心で。じーんとしました。

物語の幕を引くのがかつて幻想の中から抜け出し、実在に生きるようになった
桐島先輩である、というのもまた良いですね。
死神と少女の美しい物語にふさわしいお話でした。

エンディングは、描写からしてどう考えても現実世界ではないので
どんなに願っても決して「人」になれない十夜の代わりに
紗夜のほうが「幻想」となって、十夜と「幻想」の中で結ばれたと解釈しました。
だからこその、まばゆいばかりのハッピーエンド。

幻想を愛し、幻想と生きることを全面的に肯定した黒の章は
印象深く、創作物を愛するすべての人への励ましのようでした。
とても味わい深かったです。
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