下天の華 織田信行 感想

  • 2015.03.21 Saturday
  • 01:21
下天の華


織田信行の感想です。

以下ネタバレ感想。
織田信行

散々織田信長を褒め称えた後でなんですが、私は織田信行のように
こじらせた弟が……嫌いじゃないんだぜ……

人はあまりに強く深い悲嘆に襲われると、悲しみが怒りに姿を変えます。

悲しみがあまりに強すぎてその感情を持て余すから、その感情の原因となったものに
「どうして」という怒りをぶつけるのですね。
原因が見当たらないときは世の中とか、神とか、運命とかに向いたりします。
こう考えると、私には信長の葬儀での振る舞いも理解できる。
ただ、信行も自分の悲しみを受け入れ、時間を置けばあれが
信長なりの悲しみ方だったのだと、きっと理解はできたと思うのですよ。
でもそこまで行くには信行が自分の悲しみに決着を付けなければいけない。

織田信行は、彼はただただ、悲しかったんだろうな、と思いました。
その悲しみが強すぎて織田信長への怒りとして表れてしまったけど、
もともと信行は兄を恨んでいたわけではないので、最終的に
自分でもなぜ信長をこれほど憎むことになってしまったのか分からなくなる。
そこまで信行の悲しみが歪んでしまったのは、信行が周囲から徹底的に
悲しむことを否定されたからです。

悲しみの感情を人に否定されると、本当に、身を切られるように辛いものです。
世の中への絶望感にもつながります。繊細な信行なら尚更。

そのせいで信行は悲しんでいるときに罪悪感を覚える羽目になります。
どうしても我慢できないときだけコソコソ隠れて悲しみ、
また悲しみに蓋をしてやり過ごしということを六年間もやってしまった。
信行の悲しみの大きさからして、そんな風に抑えつけていては
悲しみを解消しきれません。解消しきれない悲しみは怒りになり、
憎悪になり、でも本当は信長を妬みたくないのに妬んでしまい、
妬んでしまう自分、才能のない不甲斐ない自分に絶望してまた悲しくなり、
それが怒りになってやがて憎悪にまで育ち以下略。

ほたるちゃんが言っていた通り、人は悲しいとき、存分に悲しまなければなりません。
相手が深い悲しみにいるときに理屈をぶつけたところで、
人の心にはまったく響きません。相手を傷つけるだけです。
何故なら、例えそれがどれだけ正論だったとしても、
それは結局、「悲しむな」と言って相手の悲しみを否定する行為に過ぎないからです。

そして本人は「正しい」と思っていても、それは当事者の都合による「正しさ」でしかない。
それは、墓前でメソメソ泣く人の姿を見るのが自分と重なって辛い師匠の都合であったり、
保身とセコイ野心で頭がいっぱいな柴田勝家の都合であったり、
店先が汚れてるのを見るのが不愉快なおばさんの都合であったり。

人がとても深い悲しみにいるときに、理屈によって「悲しみ」を解消する術はありません。
周りができることはその悲しみに寄り添い、共感したり理解を示したりすることぐらい。
だから織田信行は迷わず子どもの心に寄り添い、一緒に悲しんであげられたのです。
それでも織田信行は、子どもではなく、彼自身の中にある死にたくなるような悲しみに
向き合わなければならなかった。悲しむことを自分に許してあげる必要があった。
まあこれも御託なんですけどね。それができないからこそのほたるちゃん登場です。
ほたるちゃんは深い悲しみが、悲しみの否定では決して癒えないことを知っています。

尊敬していた父、織田信秀の死の悲しみ。
織田信長の葬儀での振る舞いへの悲しみ。
兄である織田信長と父の死を悼み、感情を共有できない悲しみ。
柴田勝家に兄を殺して家督を奪えとそそのかされた悲しみ。
さらに柴田勝家に裏切られた悲しみ。
優しく在り、悲しむことを軟弱だと否定される悲しみ。
織田信長に遠く及ばない(と信行が思っている)、そんな自分への絶望感。

これだけの悲しみを抱えながら、織田信行は誰とも悲しみを
分かち合うことができませんでした。
出逢った人にはことごとく悲しみを否定されています。
師匠ですらそうです。だから信行はあれだけ長く仕えた師匠すら疑ってしまう。

彼は序盤で、ほたると感情を分かち合おうとする素振りを見せます。
まずは軽いジャブとして「すごい兄がいると苦労するよね」方面で働きかけるも
残念ながらほたるは実際には光秀の妹ではないから、その部分では共感を示せない。
ほたるには偉大な兄弟がいる嫉妬は理解できません。

彼は誰かに共感してほしかった。感情を肯定してほしかった。
織田信行は仲間、同志に飢えていた。
だから光秀の思いがけない申し出を、裏も取らず、無邪気に信じてしまう。

恐らく父の死後、織田信行はただしばらく、
父の死を悼んで静かに過ごしたかったのではないでしょうか。
信行や父信秀の優しさは、強さに裏打ちされたものではないから
乱世では食い物にされるだけだったと思うと切ないですね。

信行は葬儀の後、信長と殴り合いのケンカでもしていれば
ここまでの憎悪に発展することもなかっただろうに、信行は立場上、
悲しみを抑え、その悲しみが怒りとなり、それも抑え続けてしまったため
引き返せないところまで来てしまったのだと思います。

信行だって偉大な兄上をただ尊敬して憧れて、心酔していたかったはず。
でも兄弟だからこそ余計に信長の才覚に嫉妬してしまうし、
信長を素直に認めるには、信行は中途半端に有能で信長に近すぎて、
でもどこかで信長が自分と同じ卑小さがあるところを探そうしてしまい
そこで信長の器の大きさを目の当たりにしてまた打ちのめされ。
さらに信長に自分の悲しみや、優しかった父を否定されたことが余計に辛い。
それがまた新たな悲しみを生んで怒りに変わってしまう、悪夢の循環です。

このルートの良いところは、ほたるちゃんの信行への姿勢です。
ほたるちゃんは信行にお説教をしません。ただただ、彼の心を心配している。
そんな温かさが感じられてよかったです。
そして、自身が悲しむことを禁じている信行からしたら思いがけず
ほたるちゃんに悲しむことを肯定されてしまい、ぐらぐら心が揺さぶられます。
シナリオ中いくども出てくる「風」は、信行の自分を責める声です。
「風」は信行に悲しむことを禁じ、優しくあることを否定し、
尊敬する兄上を殺すように駆り立て、責め苛みます。
だってかつて彼は周囲にそうされたから。
しかも、信行は真面目にそれを受け取ってしまったのですね。
相手を否定すればよかったのに。でもその価値観を受け入れてしまったのは、
戦国の世でその考え方は一般的で、信行自身にもどこかで劣等感があったからなのだろう。
「風」は信行の中にいる、周囲の人の声(だと信行が思っている)の表れだと思いました。

信行は根が純粋だから、ほたるちゃんにかつて周りに否定されてしまった
優しいところを褒められるたびに苦しくなってしまうのですね。
せっかくうまく騙されてるんだからその評価に乗っかっちゃえばいいのに
そういうことはできない。信行はもともと清廉な人だから、
いちいちほたるちゃんにも本音と建前を解説してしまうのです。
いやー、もうちょっと図太く鈍感に生きてもいいんだぜ……と肩のひとつでも
叩きたくなるもの。信長の威を借る信行になっちゃえば楽になるのにな。
でもそれは余計、自尊心を傷つけられて屈辱的に感じてしまうのでしょうね。

信行の高潔ぶりを特に感じたのは、柴田勝家に見限られてハメられたときに
「自分が弱く将としてふさわしくないから」裏切られたと思ってしまうところでしょうか。
いや、紛れもなくお家騒動を引き起こそうとした柴田勝家が悪いんだよ?と
言いたくなりますが、そこで信行は自分を責めてしまうのです。難儀な人だ。

序盤は信行さんがぜんぜん心開いてないし正体がバレてからは
冷たくなってしまうので恋愛イベントはあまりなかったものの
ほたるちゃんが必死に信行を追いかける姿や、冷たくしてみても
本当にほたるちゃんを利用したり冷酷に扱ったりできない信行がおいしい。
また、まだ正体がバレてないときの、蛍を見てるところで
なんとなく自分の正体を匂わせてしまう信行がね……!
そういう、自分に無邪気な好意を寄せる姫を相手に罪悪感に駆られる姿や
本当の自分を知って欲しい弱さがちらちら見えながらも、
なんだかんだ小動物や女房など弱い者には一貫して優しかったり
悲しみに襲われている子どもと一緒に悲しんであげたり
非情になりきれず、優しさも捨てられない人間的な弱さが魅力的な人でした。

恐らく、「信行様はお優しい」とか言われると、
信行さんは責められてるように感じてしまうんだろうな。

中盤から終盤にかけてシナリオはドラマティックで面白かったです。
特にエンディング間際のほたるちゃんマジかっこよかった。男前だった。
あと信長さまの計らいが粋で良かったです。
確かに、信行が苦しみから解放されるのはこれ以外にない。
炎の中、力強い言葉で信行の呪縛を解き放ってあげたところは号泣もの。
その後のエピローグもやばい。
やばいんですよ、萌えすぎて語彙がだんだん尽きてきました。
あと、時雨と烈火のエピソードにはほっこりしました。

ところで、「誘惑」イベントでの信行を見ると、割と好意をストレートに見せるところは
信長とよく似ていてよかったです。
信行も根はまっすぐで、はっきりした人なんだろう。
あと光秀が、ノーマルエンド?の別れ際に「今回のことはすべて忘れなさい」って
言ってくれたのが印象的でした。すげえ優しくて……いや、びっくりした。
コメント
コメントする








    

calendar

S M T W T F S
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031   
<< July 2019 >>

応援中

乙女ゲーム「白魔女と運命の恋」 乙女ゲーム「白魔女と運命の恋」

selected entries

categories

archives

recent comment

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM