華アワセ 唐紅/うつつ編 姫空木 感想

  • 2015.09.22 Tuesday
  • 01:46
華アワセ 唐紅/うつつ編 (エンターブレインムック)


華アワセは既に面白いのがわかってるので、安心して進められました。
これまでのツキを踏まえた内容で面白い。続きが気になります。

以下ネタバレ感想。
冊子のほうに「華アワセには隠された裏テーマがある」と書かれていましたが、
そのテーマとはまず間違いなく「自立」でしょう。

一族(あるいは庇護者)からの自立、
他者の評価からの自立、
そして、性別からの自立。

このツキでの姫空木は、王子様でもお姫様でもありません。
殊更に強調されている通り、姫空木は人間として自由意志を示します。

しかしこのツキは姫空木のものではない。
そのため、自分の意志に従って生きることは覚えたものの、
みことの心を思いやるような高等芸までは披露できず、
まさにエゴと愛欲に満ちた姫空木の恋模様が描かれる。

しかし、私はグジグジして善人ぶっていた姫空木より、
ここまで振り切った姫空木のほうが好きです。
今回の姫空木は自分自身の欲に自覚的であり、
幼なじみの楽しげな夕食風景を指をくわえて見ているしかできなかった
姫空木はどこにもいません。

茉莉花と花神も出てきて、最初は二人が生きて楽しそうにしててよかったなと
思ってたのですが、茉莉花と花神の歪みも浮き彫りになって面白かった。

茉莉花の恋心については、なんだか納得がいかなかったのだけど、
チャリスエンドで茉莉花が花神に声をかけるところを見て、
やっぱり茉莉花はどうあっても最期には花神を選ぶことから
茉莉花の気持ちは、最初はほのかな恋心だったかもしれないものの、
少し違うよなという自分の見解が間違ってなかった……かな……と思える。

恐らく茉莉花の姫空木への執着は、自分と同じ境遇の人間が、
自分よりも幸福になることが許せない、という嫉妬によるのではないかな。
茉莉花は恐らく、姫空木が不幸でいると安心するのだと思う。
逆に姫空木が自立して幸福になると、自分だけが置いていかれた気持ちになって
癇癪を起こすのかな、と解釈しました。うまく言えてるか分からないけど。

というのも、茉莉花の恨みや怒りはすごく深いから。
なにもかもを奪われ、虐げられたことの怒りや憎悪。
それを茉莉花は自分で処理できない。

「ヒトって見返りばっかり求めて本当に嫌。
 群れて、媚びを売って…自分の考えもない。
 そのくせ異質な存在がいたら集団で迫害する愚民のクセに」


茉莉花のこのセリフ、裏を返せば彼女はヒトに
自由意志をもち、茉莉花に見返りを求めない無償の愛を捧げ、
異質なものを許す存在であることを望んでいると取れます。
つまり茉莉花の望みは存在することへの無条件の肯定です。
それは、本来、親の果たすべき役割でした。理想論をいえば。

誰にも叱られることなく、父性的な愛情も母性的な愛情も受けられないため
茉莉花は子どものように、赤ん坊のように泣きわめいて当たり散らすしかできない。
ほかにどのように発散していいのか分からない。
憎悪によって苦しんでいることにすら気づいていないかもしれません。

茉莉花は癸の一族ゆえに存在を否定されている子です。
だから人を苛烈なまでに虐げる。自分の存在を自分で肯定するために。
相手を屈服させないと不安なのでしょうね。それとも恐怖かな。
そしてそんな茉莉花を花神は全肯定してしまうので
ますます歪んでしまうという負のサイクル……

花神は茉莉花の気持ちが理解できるから、茉莉花に無償の愛を与えようとして、
でもうまくできなくて奴隷になって……、そして奴隷であることを望んでもいる。
奴隷であることで、茉莉花の一番近くにいられるから。

花神が異常に男を嫌悪して、茉莉花の王子をやろうとしてるのは、
ぶっちゃけ姫空木が茉莉花を拒絶したせいだと思うのですが……
育った境遇からして花神と茉莉花の周囲に男性は姫空木しかいないし……

姫空木が「王子様」をやれないのは仕方ないのだけど、
茉莉花と花神にとって許せることではなかった。
彼女たちからすれば、裏切られたも同然だったわけです。
だってほかの人間を知らないから。

花神の男への嫌悪感は、「王子様(=奴隷)」という
自由意志を否定するものを茉莉花への愛のために
無理やりやっているからかもしれません。
しかし花神はそれを認めるわけにはいかない。絶対に。

だから、代わりに「王子様」であるべき(と茉莉花が思っている)なのに
「王子様」ができない男という性を憎悪する。
女である自分は苦しみながらうまく「王子様」をやっているのに何故できないのか。
という気持ちなのかな、と感じました。

むろん、男という性への嫌悪感は、性自認に拒絶反応を示す
(しかも自分の性を最も愛する存在に否定された)
思春期の少女らしくもあるけれど。

けれども、皮肉なことに花神は、ここまで愛する存在に
すべてを捧げてしまえるところが非常に女性的でもあり……。

姫空木に話を戻します。

「……なんて邪悪な。あなた方は自分ばかりだ。
 人の心をなんとも思わない。きっと、天罰が下るでしょう」


お前に言われたくねーよと総ツッコミを受けそうな
なんとも味わい深いセリフですね。

「アントワネットの宮殿」になぞらえた月光組で革命を起こす姫空木。
前回のツキで茉莉花の奴隷かつ無力なお姫様だったことを思うと
感慨深いものがあります。
アントワネットが茉莉花、フェルゼン伯爵が花神なら
姫空木はさながらロベスピエールといったところでしょうか。

ただ、ロベスピエールは革命を起こした後、今度は自分が恐怖政治を布き
最期にはロベスピエールも処刑されてしまうのですが、
まさにそんなロベスピエールそのままに姫空木は自分の正義を
貫き通してしまいます。

そしてみことが、タオルを巻いただけの裸同然、
身一つで選択をする、というのが象徴的です。

姫空木を追いかけるエンドでは、姫空木の革命は成功。
人間の道を選んだとみずから姫空木が口にし、
茉莉花を断罪し、ギロチンの役割を果たします。
己のすべてが正義だと信じたがゆえに。

利用し、利用されつつも、みことちゃんとの約束を守った姫空木。
人間の道を選んだ姫空木が迎えるエンドは皮肉そのもの。
独善的で、なんともエゴイスティックで、ゾクゾクしました。
ただ、みことにも責任はあります。
相手の好意を無視したあげく、気持ちに応えるつもりのない男に
必要以上に優しくするのは残酷なことで、報いを受けたともいえるかもしれません。

さてもうひとつが、相談する、姫空木と向き合わないエンド。
賭けに負けた――敢えてこの言葉を使いますが、ツキに見放された姫空木は
せめてみことの心に自分の存在を刻みつけることを選択します。
すなわち、革命を成し遂げた悲劇の英雄として。
ご立派な自己犠牲心ですが、あれもまた姫空木の一面なのだと思います。
愛のために死ぬのは楽なことです。

エンディングは恐怖しかなかった。
なんだかんだ言っても斧定先生となら幸せになる道もあると思うのですよ。
でも姫空木は、ツキのない姫空木とはまったく幸せになる未来が見えないのが
とても良いですね。姫空木のエゴに運命が応えない。どうあがいても。

「自立」とはなんなのか。
エゴと欲望のために、他人を顧みず生きることなのか?
そんな問題提起と共に、続いて蛟編に向かいます。
コメント
存在することへの無条件の肯定、これを補給して辛い浮き世を乗り切るために皆、乙女やBLに嵌まるんです。あと花札だけど宝塚の要素もありますね。ベルバラだわ。なんかアドラー心理学の嫌われる勇気を思い出すお話でした。
  • nobara
  • 2015/09/28 2:53 PM
そういう側面はありそうですね。
確かに茉莉花は、どこかで不安を拭い切れない部分があるのかもしれません。
  • 大樹@管理人
  • 2015/09/29 4:56 PM
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