シュガードロップ・ブレイクアウト+α  感想

  • 2017.07.22 Saturday
  • 01:16
Windows用ダーク恋愛ノベルゲーム『シュガードロップ・ブレイクアウト SpecialEdition』

こちらはリクエストボックスよりおすすめいただきました。ありがとうございます!

15才以上対象ダーク恋愛ノベルゲーム。
このゲームが初稿で出たときにパッケージ版を購入したのですが、
プレイし始めてなぜ本能的に避けていたのかを理解しました。

「メルクリウスの青い砂」のときから推しキャラはロディス・カスタニエさんで、
そんな彼が出るならばと即座に購入したものの。

キービジュアル・キャッチコピー、そしてなにより、「メルクリウスの青い砂」で
見かけたマーゴットさんの得も言われぬ雰囲気から、この展開をどこかで
予想していて、だからこそほとんど積みゲーというものをしないにも関わらず、
今まで強硬に避けてきて、存在を(意図的に)忘れてきたんだと思います。

結果的には、プレイして良かったです。
心のどこかで引っかかってはいましたし、自分だけではプレイする勇気が出なかったので、
おすすめいただいてありがたく思っています。

スチルはかなり豊富で、テキストも読みやすいです。
テキストだけでも充分に面白いのですが、特にたくさん挟まれるスチルが
臨場感を出していて、この物語に更なる彩りを加えていました。
なにより、StudioF#さんはいつもそうなのですが、ストーリーマップより
各登場人物の心情が伺えるのが良いですね。

「メルクリウスの青い砂」に至るまで、「渡り鳥」と
「シュガードロップ・ブレイクアウト」を経て、ロディスさん、
マーゴット、ジェラルドの今までを知ることが出来たのはやはり嬉しかったです。

派生作品をぜんぶクリアしてからアップロードしようと思ったのですが、
結構たくさんあって記事を長く寝かせてしまったので公開しておきます。

以下ネタバレ感想。
「メルクリウスの青い砂」「リ・エンゲイジ」の盛大なネタバレもあります。
私はロディス・カスタニエさんが好きです。
それは彼が、かなりの覚悟を持って志を成し遂げようとしている男だからです。
野心のある男であり、抱える志は高潔でありながら、
そのために手段を選ばない覚悟があるところに心を動かされた気がします。
今こうしてエウロを見ると、ガイアポリスにいたユノには決して見えない暗部が
たくさん伺えて、ロディスさんがジュピターを求めるのも無理ないなあと感じる。
当時プレイしたときも「無理もない」と思ったけど。

輝く幼き日々との別れであり、同時に無知との別れを描いた作品でもある
「渡り鳥」を経て、ロディスさんがどんどん頼もしくなっていく姿を
見るのは楽しかった。
その中でロディスらしい人間的な優しさとの葛藤もあって、
こういう経験を経てあの強かさを身につけたのだなあと思うと感慨深い。

「メルクリウスの青い砂」でマーゴットを初めて見たとき、
彼女の描写が、どう考えても普通ののほほんとしたお姫さまのそれではなくて、
すごく気になったのをよく覚えています。
マーゴットにはなにかがあって、その薄暗いなにかがロディスとの
揺らがぬ結びつきにもなっていて、ただのたおやかで苦労を知らないお姫さまではない、
純粋そうに見える中にある妖艶な雰囲気にあれこれ思いを馳せたなあと懐かしくなりました。

同時に、メルクリウスの青い砂のときには、ジェラルドがいろんなしがらみに
囚われてて身動きが取れないように見えて歯がゆく思ったことを思い出します。
しかし、こうやってジェラルドの剣としての日々を見てると、ジェラルドが
優しい姉上を決して捨てられないことに納得せざるを得ない。
でもマーゴットは、ジェラルドに恋人が出来たら無邪気に喜びそう。
というか喜んでたような描写があった気がする。
それにユノが複雑そうにしてたような。
(妄想だったらすみません)

ジェラルドの、「僕を倒したかったらエリン・グレイを連れて来い」という
台詞が印象的だったので、待望のエリン・グレイさんを拝めて感無量でした。


で、「シュガードロップ・ブレイクアウト」。


ある意味で、これは女の持つ究極の欲望を成就して見せた作品かもしれないと思いました。


もしこういう展開だったらおぞましいな、と考えていたのですが、
やっぱりこういう展開で、地味にダメージを食らいました。
もうさっさとゲオルグを処分したら良かったのではないかと思います。
ロディスの思惑が不透明なところでゲオルグが死んだら、
あっという間にハミルトン公爵家に権力基盤を
ひっくり返されるかもしれないという事情が……あった……のは……
分かるけども……。

でも、なんだかんだロディスとマーゴットが、お互いに
好意を持って結ばれたのが確定してほっとしました。
マーゴットの恋が実って本当に良かった。

最初はトゥルーエンドを狙ってたのですが、心が傷んで
一周目は「影の剣」ルートに行きました。


マーゴット=エディス・ヴィラ・アヴァロン

聡明だけど純粋で、素直で、優しい女の子。
なんとなく「渡り鳥」時のロディスさんを思い出して微笑ましくなりました。
恵まれた生まれ育ちにあることを厭われ、批判されたのはロディスも同じで、
罪や闇を抱えているところも、それでもしなやかに生きているのも、
どことなく二人は似ている。
と思ってたら「リ・エンゲイジ」でもそう描かれていて、
要するにこの二人はお互いの理解者でもある関係性が良かったです。

彼女が愛されて育ち、苦労を知らず、なに不自由なく
純粋に育ち、幸福な12歳になったことは、これほどの罪なのか。

無邪気に父を慕い、やっと会えた父に娘らしく甘えて、初恋に浮かれる。
それがこれほど尊厳を踏みにじられるような、酷い罰を
受けるようなことなのかと思ってしまうと辛かったです。

彼女がこれを報いだと感じているのが悲しかった。

マーゴットは魂をすり減らしながらも、ずっと求めてきた父への思慕を捨てきれない。
望んだかたちとは異なるけれど、父からの(アーシュラへの執着という名の)
肉欲に基づく「愛」を得られて、それになにかを返そうとしてしまいます。
マーゴットが求めていたのは肉欲に基づく「愛」ではなく、
保護者による無償の、存在をまるごと肯定されるような「愛」でした。
言い換えれば、ゲオルグがマーゴットにアーシュラの影を見て
マーゴットの身体を求めるたび、マーゴットはマーゴットという「個」としての
存在を夜ごとに否定されているも同義です。
エリン・グレイも剣であり、どこかで姉アーシュラの子としてのマーゴットを見ていて、
ジェラルドは剣であるためにマーゴットと対等に並び立つことができない。
だからこそマーゴットはロディスに強烈に惹かれるのがよく伝わってきました。

心の奥深くで、宝物のようにロディスへの恋心を大切にしているさまは
とても健気で、いじらしかったです。
マーゴットが尊厳を踏みにじられている実感を抱かずに済むよう、
エリンがミルクティーに薬を混ぜるさまは、甘ったるくも毒々しさがありました。
余談ですがこのミルクティー、一体いつまで続けるつもりなのでしょうか。
そして当然の疑問として、ゲオルグとの夜伽で起こりうる懐妊の問題は
どのように回避するのか。ゲオルグの子どもじみた未練と、マーゴットの同情と、
ロディスの寛容だけで話が済めばマシなほうで、マーゴットが世継ぎを産んだら
その子どもはとてつもない罪と業を生まれながらに背負うことになります。

派生作品で解決するのかもしれないですが、「リ・エンゲイジ」の時点で
重要な世継ぎ問題がスルーされたのが非常にもやもやしました。
この作品で欠点を挙げるとするならその部分が美談で流されたことかな。
マーゴットは哀れだけど、母親になったら哀れだけでは済まないと思う。
その辺りをどうするのか。
黙ってりゃOKというのは、もとはといえばゲオルグの自己満足でしかない以上、
さすがにマーゴットの子が気の毒だと思います。

話を戻すと、ロディスを想い続けてきたマーゴットが、馬丁の口から思いがけず
ロディスの名を聞いてしまってショックを受ける場面、
彼女の気持ちがよく理解できました。
日中の明るさと、夜の諦めのコントラストがくっきりしすぎていて気分が重くなる。

「……心って何?」

ゲオルグにあげるものがないから、人としての尊厳を差し出したマーゴットの
この台詞は辛かったです。
マーゴットがゲオルグに踏みにじられないよう大切に秘めてきた、
最後の心のひとかけらがロディスへの純粋な恋心で、
宝物のようにそのきらきらした思い出を時折取り出しては愛でて、
それで自分を保ってきたギリギリのところでついに決壊する、
この一連の流れは哀しくも、強く印象に残りました。
ロディスさんが重すぎる罪をものともせず、ヒーローを買って出てくれて本当に良かった。
マーゴットが満たされている幸福なお姫さまだったら距離を取っていたロディスが、
彼女が踏みにじられていると知って初めて積極的に距離を縮めるのが、なんか因果ですね。

彼が、差し出しても差し出しても決して報われることがなく、
サンドバッグのように傷つくしかないマーゴットに、恋を飛ばして
愛を感じるのは理解できます。
恋はどこか、相手に抱くまぼろしを追いかけるようなものでもあるから、
マーゴットを取り巻く現実に衝撃を受け、恋ではなく愛を覚えるのは納得できました。



ロディス・カスタニエ

マーゴット視点で見ると、これでロディスさんに落ちない女の子いるの?というぐらい
すごい格好良くてびっくりしました。なのに本人に自覚がないのもらしいというか。
出逢いからして洗練されていて、なのにどこか一風変わっていて涼やかなのに、
「内緒話をいたしましょう」からのジェラルドとの出逢い、
それでも冷静さを失わずにあくまでも寛容、余裕があって、それだけでなく紳士的。
純粋なマーゴットが恋に落ちて当然だと思いますし、狙ったこととはいえ、
とてもロマンチックでお気に入りの場面です。
あのロディスがすっかり世慣れていてにこにこしてしまいましたが、政略結婚を狙いながら
マーゴットに対して罪悪感を抱いたりして、そういうところも良いですね。

「そういえば、姫殿下は僕などには手の届かないお人だった」
「では、届きますか?」

この一連の流れはドキッとしますね。
わざとやってんだろうけど。
ゲオルグの前で堂々と「マロゥ」呼びしたのも好ましいです。
今思えばそれも逆撫でしてしまったのかもしれないけど……。

人を救うという強い信念を持っている人で、それなのに意図せず、
良かれと思ってしたことが、結果的にマーゴットの救いを求める手を
振り払うことになっていて、ロディスの優しさが仇になっていたのが
皮肉でした。いっそ罪悪感を乗り越えてでもマーゴットに近づけば、
マーゴットの苦しみは4年も続かず、もう少し短かったかもしれない。
でも、評議員秘書官の経験はロディスに必要だったとも思う。

権力への確かな道筋を、マーゴットのために諦めたということは、
恋愛感情とはいかなくてもロディスがマーゴットに対して
かなりの好感を抱いた表れだと感じました。
ロディスにとってマーゴットとの結婚はかなり強い信念を成就するための、
またとない有力な手段なので、それを諦めるにはかなり強い心の動きがあったと思います。
どちらかといえば、道具ではなく、友人への接し方かな、と。
だから彼は、己の信念ではなくマーゴットへの誠実さを選んだと受け取れます。

ロディスの、マーゴットを人として尊重する気持ち、彼女を権力に至る道具として
利用しようとしたことを申し訳なく感じる思い。
それが、マーゴットを人ではなくアーシュラの幻影として見ているゲオルグに、
勇気を出して、ただ一度だけロディスへ助けを求めたマーゴットの尊厳を
売り渡した結果になってしまったのが、本当に辛い。
しかもロディスがそのとき、明確な違和感を覚えていたこともさらに追い打ちをかける。

さすがにジェラルドの力技にびっくりしましたし、あれを見て覚悟を決めた
ロディスに感動しました。いや並の男なら光の速さで逃げるよあれ。
でもロディスが逃げなかったのは、あの瞬間に彼はマーゴットが
地獄のような苦しみと諦めの中にいることを理解したからで、
つまり「あれを見て自分はどう感じたか」というよりも
「あの中で彼女はどういう思いでいるのか」というところに
咄嗟に考えを巡らせたところが、彼の本質で、人間性の表れなのだと思う。

あれを見た後、最初にしたことがデートのお誘いというのが、本当に格好良い。
この二人の街デートは、重苦しい鬱展開が続いて死にたくなってたので心癒やされました。
デートの別れ際、かつて助けてやれなかったやり直しのように、
「また一緒に行きましょう」と誘ったロディスに、マーゴットが
もう縋らず、ただ微笑んだことに胸を抉られました。
ここの、「あなたの世界も」という付け加えられた一言が良い。

最後まで文句のない貴公子ぶりを発揮していて、
マーゴットの想いが報われてとても嬉しかったです。
ストーリーマップでの、螺旋階段を降りながらの「僕が困る」もときめいた。
あの一言は、これから先マーゴットの未来を引き受ける気持ちがなければ
出ない言葉だろうから。



エリン・グレイ

影の剣編は泣くよね。

咄嗟に助けを求めて当然だと思うので、影の剣編も好きです。
どこか親子のようでもあったエリン・グレイとマーゴットの関係が
ゆっくりと時間をかけて変化していくのと比例するように、
ジェラルドとゲオルグの関係が親子に近づいていくしかけが面白い。

エリンはあのとき、逃げ切れる自信がなかったのかもしれず、
だからジェラルドを置いていったのかなあとも思うと、親心にも感じられるし、
置いて行かれたジェラルドの孤独感と寂しさもよく分かりました。

あのウヴェイの嵐の夜、それまでマーゴットの庇護者で、絶対的な存在感を
放っていたはずのエリン・グレイが、所詮はマーゴットの持ち物に過ぎないと
鮮明に突きつけられてしまったのが衝撃でした。

だからエリンに助けを求めると、エリンは救いの手を伸ばす代わりに、
マーゴットはただの少女となり、皇帝の位を諦めなければならない。

影の剣は影の剣に過ぎず、光であるマーゴットの光が鈍れば、
影もまた動きが鈍ってしまう……。
表裏一体の存在であり、光の住人でないからこそ、
マーゴットを影からしか護ってやれない、そういう歯がゆさが
描かれていました。

トゥルールートで、マーゴットが笑顔で、エリンがマーゴットに
アーシュラの面影を重ねているのを知っていると告げた場面、
哀しいながらもどこか温かさがあって好きです。

ロディスにほんの少し、気付かれない程度に見せる情のようなものが
エリンの人間味を感じさせて好ましく思いました。
たぶんエリンとゲオルグの立場が逆であっても、エリンはゲオルグのようには
ならないのではないかな。そのせいでたとえ心が凍ってしまったとしても、
なんとなく、エリンはその愛を求めるがゆえの刃を、幼子よりは
自分の心に向けてしまう部類の人ではないかなと感じました。



ジェラルド

影の剣編では、置いていかれたのだから仕方ないけど、ゲオルグが
大好きな姉になにをしたのか、ジェラルドが最後まで知らなかったのは
救いだったのかもしれません。
エリンもマーゴットも、すべてを失ったジェラルドが縋るしかなかった
「父ゲオルグ」を取り上げる真似はしなかった、その優しさが切なかった。
知ればジェラルドはゲオルグを父だと思うことは無理だろうから。

幼少期から世界のすべてがマーゴットだったのがよく伺えるけど、
それでもジェラルドは幸せそうでどこかでほっとしました。
もっと陰鬱なものを予想していたので。

苦しむマーゴットをなにも出来ずに見続けるのは、エリンもジェラルドも
身を切られるような思いだっただろうけど、その絆がマーゴットの心を
護っていた部分もあって、この三人の温かな関係性は良かったです。
あれをロディスに見せることは、エリンにとってもジェラルドにとっても
苦渋の決断だっただろうけど、それでも信じたのは、ロディスが
かつて本当にジェラルドの秘密を守り通したからかもしれないと思いました。

ロディスと思った以上に仲良しなのにほのぼのしました。



ゲオルグ

相変わらず心情描写は秀逸で、気持ちの変遷は理解できました。
が、マーゴットの父への思慕を利用するさまはおぞましすぎて、
ゲオルグはいつ死ぬのだろうかとそれだけを考えていました。
ロディスと楽しんだ後に、後ろめたさからゲオルグの機嫌を取ろうとする
マーゴットの心理描写が秀逸で、痛々しすぎて見ていられなかった。

出来るだけ苦しみながら惨めに死んでほしかったのに、
バッドエンドで死ぬときは妙にすっきりしやがってて納得がいかない。
私はこいつ嫌いだな。
正直今でも死ねばいいのにと思ってるし、愛を免罪符にすれば
なにをしても赦されると思っている根性が気に入らないです。
「リ・エンゲイジ」ではマーゴットがゲオルグを受け入れたことが
なぜか「ちょっといい話」みたいになってて慣れって怖いなって思いました。
強姦が親告罪ではなくなったのは良かったんだなとしみじみ感じます。

自分の気持ちの埋め合わせと、これまで溜めに溜め込んできた哀しみや怒りなどの
負の感情を処理しきれなかったツケを、いい年して自分より弱い立場の人間に
支払わせようとして更に居直る部類の人が虫唾が走るほど嫌いなため、
もう罵倒しか出てこないのでこのへんでやめておきます。

こういう、ゲオルグみたいな男や、ゲオルグとマーゴットとの関係性、
更にそれをにこやかに受け入れてしまうロディスとの三角関係に
ある種のロマンを見い出す人もいるのだろうけど、
自分の精神安定のためにあんまり深く考えたくない。


===


END8「帰還」
どんなにゲオルグが嘆こうが知ったことじゃねえよな、というのが
素直な感想なのですが、「また三人で」いられることに
無邪気な喜びを見せるジェラルドがただひたすら切なくて胃が痛い。
ジェラルドがなにも知らないのは、エリンの情だったのか、失策だったのか、
そう思うと、エリンの親心だったとしたら皮肉すぎる結末。
マーゴットは長く保たない気がします。世を儚んでしまいそう。


END9「二人」
ロマンチックでとても好きなエンディング。
別れの哀しさ、月夜の美しさといい、エリンとマーゴットの
旅路の温かさと、お互いへの想いがすごくよく見えてお気に入り。
ここにジェラルドがいれば、と思ってしまいますね。


END3「誘い」
ゲオルグの部屋から逃げ出した先で、イノセントを妖精だと思うマーゴットと、
謎めいたメッセージが、不気味でありながらもおとぎ話のようでもあって、
印象に残っています。
マーゴットはこんなかたちでしか、子どもでい続けることを
世界から許されなかったのだと思うとしんどい。
苦しいだけの現し世にいるよりは、妖精のいる魔法の国に行ったほうが
マーゴットは安らかなのかもしれないと思いました。
最後までそう信じさせてあげたんだな、と……
それは情けだったのかもしれない。
書斎でのハミルトン公爵の振る舞いを見る限り、こちらのエンディングでは
生きているときに敢えて絶望を与えることはしなかったようなので。


END5「海の風」
恋心の象徴だったロディスへの手紙に火をつけて、
文字通り光を失うことで、マーゴットはようやく地獄から
逃れられるのが示唆的ですね。
エリンとジェラルド、二人の温かさと共に、以前のように
戻るためには、マーゴットは光を諦めなければいけない、というのが
なんともいえない……。
闇の中にいても、安らかであるならそれでいいのかもしれない。
光でなくなったマーゴットが剣と共に影に沈む、
この三人の関係性を象徴するエンディングでした。


END6「密室」
ベネディクトの捨てられなかったアーシュラの写真と共に
炎に消えるマーゴットは、とうとうアーシュラの影を背負ったまま
死んでしまったのだな、と思いました。


TrueEND「約束」
到達できて清々しい気持ちになれました。
二人の告白シーンもとても好きです。
マーゴットの罪ごと赦して受け入れるロディスも素敵だし、
マーゴットが己の抱える罪に慄きながらも、幸せそうな様子には
ほっとしました。


END7「決着」
エリンがマーゴットのために罪を引き受けるエンディング。
あの一瞬の躊躇は、エリンに、光と影が交わることは
決してないのだと思い知らせてしまったのかもしれない。


END2「暗殺」
暗殺されて歴史の闇に消えるさまが無常感を際立たせました。


END4「終演」
ゲオルグを受け入れて、爛れた関係に溺れてしまうマーゴットに
死を与えるのが「イノセント(純粋)」というのが因果を感じさせました。
それが子どもではなくなったマーゴットに死を与える名であり、
大人になることを阻む名、というのが、どこか詩的ですね。
それはまるで、純粋ではなくなってしまったマーゴットの幼年期の終わりを
象徴するようで。
自分の影に「イノセント」などと名づけてしまう、ハミルトン公爵にも
ただ幸せで、ただ姉を無邪気に慕っていられた過去への未練が見えました。




===




ここからは「リ・エンゲイジ」感想。
他の派生作品はまたおいおいプレイしていきます。

前作ではドタバタしていてなんとなく婚約することになったものが、
今作ではマーゴットとロディスの心の揺れ動きに注力していて丁寧でした。

特にマーゴットの恋心が非常に切なくて良かったです。
イヴァールと相談する流れも盛り上がりました。
しかし、マーゴットが言うほどロディスは優しくないような気がしますが、
比較対象がクズのゲオルグとエリン・グレイ、ジェラルドぐらいしかいない
マーゴットがひたすら気の毒です。

列車での二人旅はひたすら可愛い。
自分を理解してほしいとロディスが願うのにもぐっと来ました。


「どこか遠くに行きたいです、ロディス様」
弱音らしい弱音を吐かなかったマーゴットが、ただ一度求めた救い。
それに対する返答として、もう「遠くに行きたい」と口にすることすらなくなった
マーゴットを、今度は強引に「遠く」に連れ出すロディスが
描かれたのはとても嬉しかった。それが、ロディスがマーゴットに
自分を理解してもらうため、というのもロマンチックでときめきました。


ところで、恐らくこの時点でもマーゴットは現在進行形で、夜伽の前に
薬入りのミルクティーを飲んでいる様子。
上にも書きましたが、妊娠してしまったらどうするんだろう……。
世継ぎ問題はもう、王宮もので避けては通れない重要な事柄なのですが
見事なまでに誰も妊娠の可能性について触れないのが不自然で、
ちょっとほのぼの話みたいになっているのが気色悪い。

マーゴットは父の愛を求めていて、彼女はゲオルグがマーゴットに
アーシュラを見ているだけだということを知っていて、
それでも受け入れました。ゲオルグが哀れだから。

恋人の真似事をしながらもゲオルグはマーゴットを愛しているわけではなく、
マーゴットはそれも知っていて、贖罪のために尽くします。

で、マーゴットは、ロディスはマーゴットを愛していないと思っています。

マーゴットはロディスの愛を求めていて、でも彼女はロディスがマーゴットに
政略的な意味で愛している振りをしているだけだと知っていて、
(注:悲観的な思い込みだった)、
それでも受け入れました。ロディスに恋をしていたから。

恋人の真似事をしながらもロディスはマーゴットを愛しているわけではなく(思い込み)、
マーゴットはそれも知っていて、それでいいと思って求婚を受け入れました。

しかし、ロディスへの愛ゆえに、マーゴットがロディスの幸福を考えたときに、
この政略結婚はさまざまな事情によって、結果的にロディスを
不幸にするだけではないかと考えて別れを告げます。

マーゴットのゲオルグとロディスへの対応は、非常によく似ています。
だけど決定的に異なる部分がある。

それは、マーゴットが、ロディスを愛している、という点です。
この決定的な違いと対比が浮き彫りになっていて面白かった。

同時に、マーゴットはゲオルグを愛していますが、
「心はロディスのもの」です(本編より)。

心はロディスのものだけど、身体を欲しがってるからゲオルグに
身体を与えているだけで、それはある種の愛なのだろうけど、
能動的な愛ではありません。
言うなれば母親の代替、母親の役割としての愛です。
虐待され、子どもでいることを赦されなかった子どもは、
親の役割を求められるケースがあります。
その際、子どもは期待に応えようと親の役割を果たし、立場が逆転する。

マーゴットはゲオルグを哀れんでいます。
対するロディスには、マーゴットはロディス相手に母親をやろうとはしていません。
ロディスはただ一人マーゴットをマーゴットとして認識し、
これまでただの一度も、マーゴットとアーシュラを重ねなかった人です。

つまり、マーゴットは母としての愛をゲオルグに、
女としての愛はロディスに与えているように見えました。

アーシュラによく似た代替品というモノとしてマーゴットを求めるゲオルグと、
紫の瞳を持つ皇女ではなく「マーゴット」という純粋な少女としてマーゴットを見るロディス。

そのくせ、ゲオルグは都合の良いときだけマーゴットの父親面をするので
本当に死なねえかなって思いました。
父と娘でもあり、息子と母でもある歪な関係性を描こうとしているのは分かりますが。

それはとにかく、これでもかというぐらい格好良いロディス・カスタニエさんを
拝めたので良かったです。
イヴァールを始め、ユーリなど友だちとの交流も出てきてほっとしました。

自分でも書いてて引くほど長い……。
いやほんと、ロディスとの結婚生活でもゲオルグって割り込む気満々なんですかね?
ロディスがいかに心が広くても、それはどうなのかと思う。
派生作品を見てただのほのぼの話で終わったらどうしようと
今から戦々恐々としています。
コメント
こんにちは、如月睦月です。
StudioF#さんの作品がとても好きなので、レビューを読めてとても嬉しいです。

StudioF#さんのゲームは砂→渡り鳥→シュガドロ→リ・エンゲイジ→天使の証をプレイしています。
渡り鳥は今までプレイしたゲームのトップ10に入るくらいお気に入りの作品です。

渡り鳥もプレイしていたので、シュガドロのロディは渡り鳥の時に知った厳しい現実から世慣れた大人になったロディに少しの寂しさもありつつ、大人になったんだなと妙に感慨深かったです(笑)
世慣れていてもマロゥを政略結婚として利用しようとしていることに罪悪感を頂いたのは大樹さんのおっしゃる通りとても良いですね。
ゲオルグとマロゥの関係を窓から覗いて知ってしまったときも助けようと覚悟を決めるところが凄く誠実でロディの人間性を表していてとても格好良かったです。
やっぱりロディが一番好きだなとシュガドロで再確認しました。

ここから砂のロディになっていくんだなと思うとそんなに一人で多くのものを背負い込まなくても良いんだよと言う気持ちになります。
ユーリとは早く仲直りして欲しいです。

マロゥはロディと会った後、罪悪感を感じて取り繕うようにゲオルグの機嫌を取ったりする心理描写が秀逸でひやひやしながら読んでいました。

私も子供ができないかと訝しみながら読んでいましたが、飲み物に混ぜられた薬にはもしかして子供をできなくする薬でも入っているのでしょうか……謎です。
子供ができたら子供が一番可愛そうなので……砂では触れられていないので、大丈夫かなとは思っています。
リ・エンゲイジでゲオルグのあれやこれがちょっと良い話っぽくなっていたのは大樹さん同様納得いかないです。
マロゥに共感しながらプレイしていましたが、ゲオルグに対して怒りや憎しみを覚えるところがなかったので、良い子過ぎて驚きつつ、そこまで自分の尊厳を踏みにじられても怒りを覚えたりできないくらいの精神状態なのかと心配になりました。
「……心ってなに?」はマロゥのずたずたに傷ついた気持ちを凄くよく表していて可哀想で仕方がなかったです。

シュガドロの時点では私はロディは同情からマロゥとの結婚を決めたように見えていたので、ラストもマロゥの片思いで将来辛い思いをするのではないかと心配していましたが、リ・エンゲイジではそういうわけではなく、ロディもマロゥのことが好きそうで安心しました。

とても好きな作品で書きたいことが色々とあり、まとまっておらず申し訳ありません。
大樹さんのレビューがとても好きで、好きな作品について書いていただけたのがとても嬉しく共感しながら楽しく読ませていただきました。
これからも更新を楽しみにしております。
  • 如月睦月
  • 2017/11/13 11:23 PM
睦月さん、こんにちは!
感想記事を読んでくださって、ありがとうございます。

私は天使の証以外はプレイしたので、睦月さんのほうが一歩先を行ってますね!
渡り鳥はジュブナイルとして良作でした。
渡り鳥を見ていると、シュガドロでのロディの変化は劇的ですね(笑)
私もロディが好きなのですが、彼は影で女の子をたくさん泣かせてそうな気もします。それも無自覚に。
砂のロディはいろんな覚悟がかいま見えましたので、過程を見ると彼がなぜそこまで
強い信念を抱いたか納得がいきましたので、プレイして良かったなと思います。
確かに、ユーリとギスギスしてるのは寂しいですね。

飲み物に入った薬に避妊薬が入ってることも考えられますが、その辺りがぼかされているのが
やっぱり気になるところです。
作者さんは生みの親ですからゲオルグが可愛くなるのかもしれませんが、
正直、ちょっと理解しがたい価値観だな……と感じています。

マロゥはゲオルグに対して怒りや憎しみを覚えられない心理状態にある気がします。
良い子なのだというよりは、虐待されて洗脳された子の反応という印象を受けました。
彼女は自分自身に対して、ゲオルグへ怒りや憎しみを覚える許可を出していないのかもしれません。
そうした感情を抱くには、まずマロゥが、「自分がされていることは酷いことだ」と認識しなければならず、
そのためには傷つく必要もあるので、マロゥがまともに傷ついて精神が不安定になることを阻むために
飲み物を飲まされている部分がある以上、難しいことなのかな、と思いました。

リ・エンゲイジではお互いに想い合っている事実が見えて私もほっとしました。
恋愛感があってプレイしていて楽しかったです。

私の感想記事で、共感できるところがあったならなによりです。
気まぐれな更新ですが、またお暇なときにでも覗いてくださると嬉しいです。
コメントありがとうございました!
  • 大樹@管理人
  • 2017/11/16 12:32 AM
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